健診施設で働いていた頃、
受診者さんの健診をするお仕事だけではなく、
問診票をチェックしたり、集計するお仕事もしていました。
お酒やたばこを吸うか、頭痛・便秘がちなどの自覚症状、
過去に大きな病気をしたかなどを、受診者さんに書いてもらう、あの紙です。
問診票を書くのって、正直めんどくさいですよね。
それでも、概ねみなさんきれいに書いてくださっていて
ここぞとばかり(?)たくさんチェックを入れて下さっている方もいらっしゃったり
問診票にも個性が感じられて面白かったのを覚えています。
圧倒的に多い不調は
「疲れやすい」
毎日何十名もの問診票の自覚症状を見ていて
ほぼ全員と言っても過言ではないくらい
圧倒的に多くの方がチェックを入れている項目がありました。
それは、
「疲れやすい、だるい」という項目。
当時、わたし自身も体力とメンタルがダウンしていて、
すぐに心身が疲れてしまうのをなんとかしたいと思っていましたが、
自分だけではなく、みんな疲れているんだなぁ…と。
どうしてそんなに疲労感が強いのか
健診に来るのは、働くサラリーマンの方が多いです。
「そりゃ、お仕事してたら疲れるよね。
まぁ、この社会じゃ無理もないか…」とも思ったりしましたが、
それにしても、疲れている人、多すぎじゃないか。
忙しい人も確かにいるだろうけど、
毎日同じような単純作業をして、定時で帰ってる人も絶対いるよね。
※自覚症状と、健診の血液検査結果まで追えていたら
相当面白い考察が得られそうな気がしていますが、
わたしにはそこまで見る職権はありませんでしたので
どなたか面白い調査をしてみてください~!
技術の発達で
年々ラクになっているはずでは…
しかも、高度経済成長期やIT革命を経て、
特に平成あたりからは機械化や自動化が進んでいます。
体力を使う仕事や家事は、一昔前よりも減って
交通網も整備され、長距離移動は車やタクシーもある。
人間があれこれ汗をかかなくても良いよう進化している。
今や洗濯や掃除はほぼ全自動だし、
仕事が忙しいと言っても、肉体労働者より
机の前に座っている仕事のほうが多いのではないでしょうか。
(たしかに、何時間もPCの前に張り付いているのは
それはそれで疲労はしますけれどね。)
つまり、「疲れないしくみ」は
一昔前よりはるかに整っているはずなのに、です。
疲れていないはずなのに、なぜか疲れる
また、単純に仕事や家事を減らしたり、休職や退職をして
仕事をしなれば疲れはなくなるかというと、そうでもないのは
自分も過去に経験がありました。
無職になっても、たくさん寝ても
なぜかとにかくダルくて、ちょっと体を動かすだけで息が切れる。
むしろ、朝が一番つらい。
働いていなくても疲れる
同じく、わたしが働く精神科には
さまざまな理由でお仕事に就いておられない患者さんも多く来院されますが
そういった方でも「だるい」「やる気が出ない」「ものすごく疲れる」「朝なかなか起きられない」という訴えられる方は、非常にたくさんいらっしゃいます。
言い換えると、
特別疲れることをしていないはずなのに、疲れるのです。
これってもはや、だるさの原因は
「肉体疲労」という外的要因だけではなさそうですよね。
では、どうして疲れるようなことをしていないのに
朝から常にだるいのか、やる気が出ないのか。
その理由を、体のはたらきを根拠にして
この記事でいくつか解説します。
何もしていないのにだるい
常に疲れる理由
現代の生きにくい社会では
長時間労働やストレスなど、外的要因も少なからず大きいと思いますが
特に疲れることをしていないのに疲れる、
体力を温存しているはずなのにだるい、
何時間寝ても疲れが取れないなら
体を奮い起こすエネルギーが不足している可能性があります。
考えられる内的な原因は、
- エネルギー不足
(エネルギー回路が十分に回っていない) - 低血糖
(甘いものを摂りすぎた反動) - たんぱく質不足
- 副腎疲労
と、メカニズムは様々ですが
エネルギーや体力を作り出すため栄養が不足しているという点は共通しています。
順番に解説しますね。
エネルギー不足
飽食の現代では、エネルギー自体が不足していることは稀で
カロリーは充足していても、エネルギーを生み出すための回路が回っていないことが多いです。
理科か生物の授業で、エネルギー(ATP)を生み出すためには
「クエン酸回路(TCAサイクル)」というものを習った記憶があると思います。
これが、エネルギー(ATP)を作り出すための「回路」です。
グルコース「だけ」あっても
エネルギーは作れない
学生時代の授業では、
クエン酸回路が当然のように正常運転している前提で話が進みましたが、
クエン酸回路が回るためには、たくさんのビタミンや酵素、マグネシウムや鉄などのミネラルが使われます。
※エネルギー産生と必要な栄養素を簡略化したイメージ
つまり、原料(グルコース)があればオッケーというわけではなく
ビタミンやミネラル、たんぱく質などの「付属品」が足りていて初めて回るもの。
むしろ、グルコース「だけ」があっても、エネルギーは作り出せず
それ以前、回路が回らないという状況もありうるのです。
エネルギー「だけ」摂って、とりあえず的におなかが満たされているというのは
ガソリンがあっても、エンジンがボロボロに壊れているような状態。
材料を補填するだけでなく、機械自体のメンテナンスや
油をさしてあげたり、部品を新しいものに替えてあげたりするように
エネルギーを作り出すためにも、栄養補給が必要ということです。
エネルギーを作るたびに栄養は消耗される
また、グルコースと同じように、
ビタミンやミネラルも、エネルギーを作るたびに消耗します。
ですから、炭水化物(グルコース)と同じように
ビタミンやミネラルも絶えず摂り続けなければならないのですが
偏った食事をしていると、摂る量より体の消耗量が上回って、不足してしまうことが多いです。
エネルギー回路が回らない背景は
ビタミンB1不足や潜在的な貧血
この、エネルギーサイクルで特に消耗されるのが、
ビタミンB群(特にB1)や、鉄です。
女性であれば、生理の出血で鉄分を消費しますから
鉄分が不足していることが非常に多いです。
また、ビタミンB1が不足すると
エネルギーを大量に作り出すための「クエン酸回路」に、入りきらず
途中産物の乳酸が体に蓄積するため
力が出ないどころか、だるさを感じやすくなるわけです。
ビタミンB1は、糖質やアルコールの分解のために使われますので
炭水化物メインの糖質過多の食事の方や、お酒をよく飲む方は不足しやすい栄養分。
副産物の消費のために
他の栄養不足も連鎖する
さらに、代謝が進まずに途中で生産された乳酸を代謝するために
メンタルや認知機能維持にも大事な役割を果たす「ナイアシン(ビタミンB3)」が大量に消費され
イライラしたり、不安感が増す…などのナイアシン不足での不調が起きる、といったように
一ヶ所の回路が回らないがゆえに、他の栄養素の不足も悪循環的に連鎖してしまいやすくなってしまいます。
「ビタミン不足」と聞くと、他人事のように感じますが
疲れやすいし、異常にだるいし、イライラもする…というのは
思い当たる方も少なくないのではないでしょうか。
栄養不足なら自分で対処できる
と、脅かすようなことを書いてしまいましたが、
原因が栄養不足だとすると、
解決策は「その栄養を補給すればいい」ということ。
難しい病気ではなく、
自分で対策ができる栄養不足と考えると、シンプルですよね◎
低血糖
甘いものや炭水化物、グルコースを摂りすぎると
糖分を体に取り込もうとするインスリンが過剰に出過ぎた反動で
かえって低血糖になります。
これは「常に疲れている」とはちょっと違うかもしれませんが、
フラフラしたり、頭が回らなくなったり、イライラしたり
力が入らず手足が震えたり、発作的に甘いものや食べ物を渇望してしまったりという
糖質依存の禁断症状的な状態として表れます。
糖質制限したいのになかなか我慢できないというのは
単に意志が弱いからというわけではなく、
体の中でこういったことが起きているのです。
長期的な高血糖→低血糖ループは
体に負担がかかる
低血糖になると、だるかったり、力が入らない反面、
体は飢餓状態だと察知するので
どうにかして食べ物を口にしようと必死になります。
食べて高血糖 → インスリンが過剰に出て低血糖 → むさぼるようにまた食べる
というループを繰り返すことになり、
これを繰り返すと体にもストレスがかかり続けますので
長期的には後述する副腎疲労にもつながりかねません。
消化のためにも栄養が使われている
また、先ほどの章で書いたように
長年糖質まみれの生活をしていると、ほぼ間違いなく
糖質を消化するために必要なビタミンやミネラルも大量消費しています。
加工食品・甘いもので栄養不足になる2つの理由。甘党男子は精力不足になりやすい?
炭水化物を食べる割合を減らす
これは、たんぱく質や脂質など、糖質以外のエネルギー源の割合を増やすことが大事です。
糖質は中毒性があるので、なかなか最初はつらいんですけれどね。
【糖質制限3年】元糖質依存が糖質を減らして変化したことをご紹介します。
わたしたちの体は、機械ではなく生もの。
栄養を消化するためにも、栄養が必要で
5歳の時に食べたものが今の体にずっと残ってはいないように、
それは永続的なものではなく、日々消耗され続けています。
糖質過多で消耗したビタミンやミネラルを
サプリや食べ物などで補ってあげる心がけがあるとよいですよ。
具体的にどんなものがいいの?というのは
関連記事なども一緒に参考にされてみてくださいね◎
たんぱく質不足
成人病が注目されてからというもの、「過剰」ばかり注目され
小食は「美徳」ともされがちですが
たんぱく質の摂取量が著しく少ないと、疲れやすくなることが知られています。
筋肉にエネルギーが貯金されている
筋肉は予備エネルギーの貯蔵庫としてのはたらきもあるので、
筋肉量が少ないと、筋力が弱いだけではなく
蓄えられる「エネルギーの貯金」も少なくなってしまい、
ちょっとしたことで疲れやすくなってしまいます。
また、たんぱく質は、エネルギーサイクルで使われたり
体そのものの骨子を作る材料でもあります。
手軽にバランスよくたんぱく質を摂れる
プロテインがおすすめ
お肉や魚が苦手、食べる機会が少ない方は
手軽にバランスよくたんぱく質が摂れるプロテインがおすすめですよ。
水や牛乳に溶かすだけで飲むことができて、保存性もいいので
料理よりも手軽ですしね。
副腎疲労
ストレスに対抗したり、体をシャキッと起動させるための「コルチゾール」というホルモンは
腎臓の上にある「副腎」というところから出ています。
ストレス過多や、体の中での炎症や代謝が過剰な状態がずっと続くと
この「副腎」が働きすぎになり、やがて文字通り疲れてダウンしてしまいます。
この状態は「副腎疲労」と呼ばれます。
朝だるい、起きられないのは
朝の機動力ホルモン不足かも
コルチゾールが最もさかんに分泌されるのは、朝。
1日の始まりに眠い体をシャキッと起こしてくれます。
つまり、朝シャキッと起きられない、日が暮れる頃にやっと元気になるという方は
もしかすると副腎でのコルチゾールの分泌がうまく行われていない
「副腎疲労」の可能性があるかもしれません。
体力的な疲れやストレスだけではなく、
腸内環境が荒れているなど、体の中で炎症反応が慢性的に起きている状態でも
体力は消耗されますので、副腎疲労が起きやすくなります。
この「副腎疲労」、日本ではまだ医療現場ですらあまり認知されていませんが、
特に、体の成長や転機がさかんなストレスフルな若い人を中心に
かなりの数の方が当てはまるのではないかと、
医療現場で患者さんのお話を聞いていて思っています。
最近の若い人って、だるそうにしてる正気のない人多いですよねぇ。
これって、本人が悪いのではなくて、
食事で必要な栄養を摂り切れていないという現れなのではないかと常々感じます。
思春期~20代にメンタルが落ちやすいのには理由があった。~栄養が足りなくなりやすい年代~
副腎疲労に必要な栄養
また、脳内ホルモン「コルチゾール」の材料も、たんぱく質。
たんぱく質不足でコルチゾール自体が不足している可能性もあるかもしれません。
心の材料はたんぱく質 理由もなく落ち込む人にプロテインをおすすめする理由と脳内ホルモンのはたらき。
副腎にはビタミンCが豊富
副腎には、血中の150倍もの濃度のビタミンCが分布していますので
ビタミンCや、パントテン酸(ビタミンB5)、マグネシウムなどが
副腎の栄養になります。
【レモン1個分は何mg?】ビタミンCのはたらき
「摂らない」引き算も大事
また、副腎疲労の場合は、何かを足すよりは
文字通り体の負担になることをやめて、体を休めることのほうが重要です。
休息もそうですが、
コーヒーやグルテン、先ほども書いたように糖質など、
体の刺激や負担になるものを控えて
体を休めてあげるとよいですよ。
日光を浴びて体が起きることも
また、朝起きられないなど、朝が特にしんどい方は
原始的ですが、光を浴びることもおすすめです。
朝少し外をお散歩するとか、朝早くカーテンを開けるとかであれば
お金もかからず明日からできます◎
日光とメンタルヘルス。~冬季うつ、天気が悪い日に気分が沈む理由と自殺率との関連性~
日当たりの悪い部屋だとか、外に出るのは…という場合は
部屋の中で光を浴びる機器↓もあるんです。
JUXLamp 光療法 体内時計 12000lux セラピーライト 寝坊 光目覚まし時計 疲労 夜勤 時差ぼけ 不眠症
決まった時刻に点灯して朝の目覚めを助けてくれるライト。
「光式目覚まし」っていうみたいですね。
日中の覚醒度を高くしてくれるので
夜なかなか寝付けない方にもおすすめです。
まとめ:
疲れやすさは「栄養不足」かも。
エネルギーを作り出す材料を見直そう
飽食の現代、特に日本では
エネルギーそのものが足りていないことは、稀なことですが
それでもなぜ、常にだるい・疲れやすい方が後を絶たないのかというと
- エネルギー(ATP)を作るサイクルが
栄養不足で回っていない - 代謝が不十分ゆえの副産物や、糖質の摂りすぎで
必要な栄養分や体力が過剰に消耗してしまっている - 体を「オン」にする副腎が疲労している
というお話を解説させていただきました!
繰り返しになりますが
疲れやすさは、エネルギーそのものの不足よりも
エネルギーを作り出すためのシステムや材料を整えてあげるのが
現代の質的栄養失調の根本的解決につながりやすいということですね◎
栄養不足は対処ができる
「自分はどれに当てはまるだろう…」というよりは
いずれも連鎖して起きているものと考えた方が適切かもしれません。
前述しましたが、
これらのほとんどは難しい病気ではなく、「栄養不足」。
原因がわかれば、対処のしようがあります。
何より、原因が栄養不足であるとわかれば、
やる気が出ないとか、頑張れない自分をむやみに責めたり
必要以上に落ち込むことも少なくなり
少しでも解決につながりやすい適切な対処が、自分でできるようになります◎
「言われてみれば、普段食べているもの、ほとんど炭水化物かも…」
「まさに、だるいし疲れやすいし、よくイライラする!」
思い当たることはありましたか?
もっと具体的に、どんな栄養や食べ方が良いのか
どのように食事に取り入れたらいいのか?など
関連記事でもご紹介しておりますので
そちらも併せて読んでみてくださいね(^^)
記事の内容について
この記事は医療従事者が執筆していますが、あくまで個人の経験・体感をもとに書いたものであり、特定の疾病の診断や治癒、すべての方へ効果効能を保証するものではございません。
掲載内容の実践にあたっては一切責任を追いかねますので、内容をよく吟味のうえ、自己判断でお願いいたします。